東京税関が初めて、密輸対策のための最先端技術や機器のアイデアを広く募集するという画期的な試みを発表しました。私自身、東京税関OBの弁理士としてこのような公募が実施されることを非常に嬉しく思います。
一方で、今回が一度限りの試みなのか、今後も継続的に行われるのかは不透明であり、企業にとっては貴重なチャンスとなる可能性があります。
東京税関は、海外からの不正薬物や金密輸を阻止するため、以下の技術・機器について提案を募集しています。
提案された技術は、東京税関との共同開発や現場検証を経て、実用化を目指すとされています。しかし、共同開発や現場検証のスケジュールや費用負担についての具体的な記載が発表内容の中に見当たりません。これらの点が不明確なため、企業は応募前に慎重な検討が必要です。
企業が技術提案を行う際に、特に注意すべき知財リスクは以下のとおりです。
提案内容の開示 = 公知リスク
今回の公募では、「提案の概要」や「カタログ」等をメールで送付することが求められています。「カタログ」については、少なくともそのカタログに記載されている事項は公知になっていると考えられるので特段問題はないと考えられます。
しかし、「提案の概要」については注意が必要です。少なくとも東京税関のホームページには、東京税関が提案内容の秘密を保持する保証についての記載が無いようです。
よって、提案後に特許出願した場合に、「このメールの内容がすでに公知になっている」と判断されるリスクがあります。つまり、特許が取れない、または取った後に無効にされるというリスクです。そのような事態になる可能性は高くはないですが、ゼロではありません。
提案前の特許出願
提案内容に新たな技術的価値(例えば、装置は既存であるが用途が新しく、その応用展開時に発生する技術的課題を克服することで得られる価値)があるのであれば、まだアイデア段階であったとしても、東京税関に技術提案する前に、特許出願しておくことが望ましいです。
しかし、今回の東京税関による発表の日付は令和7年2月17日で、公募期間は3月31日まで。この短期間で特許出願を完了させておくことは難しいかも知れません。
特許出願前の対応策
そこで、技術提案前の特許出願が難しい場合は、秘密保持に関する約束をした上で技術提案することが可能かを事前に東京税関に確認することをおすすめします。そうすれば、提案メールの内容が公知であったと判断されるリスクを回避できるでしょう。
また、技術提案の後でもよいので、東京税関との間で秘密保持契約(NDA)を結ぶことをおすすめします。
共同開発時の知的財産権の取り扱い
東京税関と共同開発が進んだ場合、開発した技術の知的財産権をどのように扱うのか(特許の権利帰属)について、契約の中で明確に定める必要があります。費用負担の問題と合わせて、この点を事前に確認しないまま共同開発などを進めることは避けたほうがよいでしょう。
東京税関への提案を検討している企業は、以下の準備を進めることをおすすめします。
今回の公募は、企業にとって新たな市場開拓のチャンスである一方、知財管理の慎重な対応が求められるものでもあります。
当事務所では、特許出願のサポートや、東京税関との共同開発における知財リスクの管理についてのアドバイスを行っています。
「この公募に応募したいが、知的財産の管理が不安…」という企業様は、お気軽にご相談ください!
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