2025.10.07
COLUMN

水際で積み上がった差止品の山 ― 特許第6552028号の技術

水際で積み上がった差止品の山 ― 特許第6552028号の技術

 前々回前回と2回にわたって、財務省から公表された資料に基づいて、「煙草及び喫煙用品」に関する特許を侵害する侵害品が少数回の手続で大量に輸入され、税関で差止めされていた可能性が浮かび上がりました。

 また、税関ホームページを確認したところ、この特許権は、日本たばこ産業株式会社の特許第6552028号であるかもしれません(断言はできませんが)。

 そこで今回は、この特許第6552028号の特許権の内容を確認してみます。まずは図面を見てみましょう(以下の図面は特許公報から引用。一部筆者による加筆)。

【図1】

【図2】

 ピンと来た方もいらっしゃるかも知れません。日本たばこ産業株式会社(JT)の加熱式たばこ(電子たばこ)である「プルーム・テック・プラス」にそっくりです。

 続いて、特許権の範囲を定める最も重要な部分、「特許請求の範囲」を確認します。今回は税関での輸入差止申立の対象となっている請求項1のみを取り上げます。

【請求項1】
 エアロゾル源を収容するカートリッジと、
 前記カートリッジを収容する有底筒状のカートリッジ収容部と、
 前記カートリッジ収容部に螺着し、前記エアロゾル源が霧化したエアロゾルを吸引する吸引口が形成された吸口部と、
 前記吸口部の前記カートリッジ収容部に対する螺着に連動して、前記カートリッジを前記カートリッジ収容部に対して位置決めする位置決め機構と、を有し、
 前記位置決め機構は、
 前記カートリッジ及び前記カートリッジ収容部のいずれか一方に設けられ、他方に向かって前記カートリッジ収容部の中心軸が延びる軸方向に突出した係合突部と、
 前記カートリッジ及び前記カートリッジ収容部の他方に設けられ、前記係合突部が前記軸方向に挿入可能な係合溝部と、を備え、
 前記係合突部及び前記係合溝部は、前記中心軸を中心とする同一半径上に複数形成されている、エアロゾル生成装置。

  特許文書に慣れていない方には分かりにくいと思いますので、簡単に説明します。(なお、以下の説明の中のかっこ内の数字は、上に示した図面中の符号に対応しています。)

 この特許は「エアロゾル生成装置」(1)に関するものです。「エアロゾル」とは、加熱式たばこのユーザーが吸い込む霧状の物質で、たばこの煙に代わるものです。つまり本件特許は、加熱式たばこに関する発明です。

 この特許の加熱式たばこは、「カートリッジ」(11)、「カートリッジ収容部」(21+22)、「吸口部」(23)という3つのパーツを備えることを必須としています。なお、「カートリッジ収容部」(21+22)と「吸口部」(23)は、本体(10)の一部です。

 そして、「カートリッジ」(11)と「カートリッジ収容部」(22)には、「係合突部」(突起)と「係合溝部」(溝)が複数あって、これらの突起と溝によって、「位置決め機構」が構成されています。

 そして、この「位置決め機構」によって、「カートリッジ収容部」(22)に対する「カートリッジ」(11)の位置決めが行われます。位置決め動作は、「吸口部」(23)の「カートリッジ収容部」(21+22)へのねじ込み動作に連動して行われます。

 加熱式たばこを使うためには、使い捨てのカートリッジ(11)と本体(10)との間で、カートリッジ内の液体(エアロゾル原料)や電力をやりとりする必要があります。よって、これら2つの部材を正確に位置決めする必要があるところ、本特許はその位置決めを行う仕組み・構造に関するもの、といえそうです。

 おそらく、「プルーム・テック・プラス」には、この技術が実装されており、その互換品も同じ仕組みを使わざるを得ません。よって、無断でそのような商品を作ったり売ったり輸入したりする行為は特許権侵害であり、輸入が差し止められる。前回前々回で推測した「大量の特許権侵害品の差止め」は、このような背景があったと考えられます。

 ここで1つ疑問が生じます。

 差し止められた侵害品はすべて「カートリッジ」(11)・「カートリッジ収容部」(22)・「吸口部」(23)の3つを揃えた製品だったのでしょうか。つまり「カートリッジと本体のセット」のみが対象だったのでしょうか。

 逆に言うと、「カートリッジ単品」が輸入されてきた場合は、差止めの対象外となるのでしょうか。

 というのも、本体を模倣するのは難しい一方、カートリッジは比較的容易に製造できます。しかもユーザーの多くは本体の正規品を所有しているため、カートリッジだけでも市場価値があります。これはプリンター本体とインクカートリッジの関係に似ています。

 つまり、模倣業者にとっては本体よりもカートリッジを作って売った方が効率的に利益を得られると考えられます。

 本特許は3つのパーツを必須要件としているため、カートリッジ単体の偽物を輸入しても原則としては特許権侵害にはならないはずです。

 しかし、それでは特許権者の保護として不十分です。そこで特許法には、一定の場合に部品単体でも特許権侵害とみなせる仕組みがあり、これを「間接侵害」といいます。

 この「間接侵害」が成立すれば、カートリッジの偽物だけでも輸入差止めの対象にできることになります。

 繰り返しになりますが、模倣業者にとってはカートリッジ単体の偽物を製造する方がはるかに容易です。したがって、令和6年上半期の「大口案件」(前回前々回参照)では、大量の偽物カートリッジが発見された可能性があると推測します。

 ちなみに、「プルーム・テック・プラス」を含む「プルーム・テック」シリーズは、2023年(令和5年)の7月以降に販売終了したそうです。令和6年上半期に大量発見された侵害品は、日本で「プルーム・テック」シリーズを使用しているユーザーに対する駆け込み販売の目的だったのかも知れません。また、このような事情から、令和7年上半期には、「煙草及び喫煙用品」の侵害品の発見が少なかった(「プルーム・テック」のカートリッジの需要が減ったため、侵害品の輸入が減った)のかも知れません。これらの推測が正しければ、特許第6552028号の侵害品が発見される数は今後も減少していくものと思われます。